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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1999号 判決 1968年11月25日

控訴人

東洋醸造株式会社

代理人

大白勝

太田忠義

滝井繁男

阿部甚吉

岩崎光太郎

被控訴人

花木孝雄

代理人

播磨幸夫

前川信夫

主文

原判決を取消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金五二〇万九、一九八円および内金二〇〇万円に対する昭和三七年一二月二二日以降支払済にいたるまで年三割による金員、内金七〇万円に対する昭和三八年三月一〇日以降支払済にいたるまで年六分の割合による金員、内金二五〇万九、一九八円に対する昭和三八年一〇月一七日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人主張の本訴請求原因、被控訴人主張の抗弁および控訴人主張の再抗弁(ただし、事前求償債権の行使による相殺の抗弁、右相殺の抗弁に対する再抗弁を除く。)に対する当裁判所の判断は、次のとおり附加訂正するほか、原判決理由説示(原判決五枚目表五行目から六枚目裏一一行目まで。)のとおりであるから、これをここに引用する。<中略>

二そこで、被控訴人主張の相殺の抗弁およびこれに対する控訴人主張の再抗弁について、順次判断する。

(一)  <証拠>と前記認定事実とを合わせると、

控訴人が、前記のとおり、昭和三七年八月二二日ごろ訴外銀行から金八〇〇万円を、弁済期は昭和三八年一月末日、利息は日歩三銭と定めて借受けた際、被控訴人は控訴人の委託により訴外銀行に対して右債務につき物上保証をしたこと。

すなわち被控訴人は、訴外銀行との間で、右債務担保のため、同年八月二二日付をもつて、その所有にかかる神戸市兵庫区平野町字口ノ小屋三八九番地山林六反歩(以下本件山林という。)を目的物として元本極度額を金九〇〇万円とする根抵当権設定契約を結ぶとともに、代物弁済予約を締結し、かつ、同銀行に対し、同日付をもつて、右山林に根抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を了していること。

を認めることができる。

そして、被控訴人が、昭和四一年四月五日の原審第一五回口頭弁論期日において、「被控訴人は右のような物上保証人であり、かつ右山林は時価金七〇〇万円相当のものであるから、控訴人に対し事前求償債権金七〇〇万円を有する。」として、(被控訴人は、その際、前記訴外銀行の控訴人に対する貸付金額を九〇〇万円としているが―該金額が八〇〇万円であること前記認定のとおりである―右のとおり求償債権額を七〇〇万円としており、下記相殺の効果に関する限り、その点は不問にして差支えない。)、控訴人に対し、該求償債権金七〇〇万円をもつて控訴人の本訴請求債権と対当額において相殺する旨意思表示したことは、本件記録上明かである。

(二)  ところで、控訴人は、「控訴人においては、訴外銀行に対する借受金債務八〇〇万円について、昭和三九年五月二九日までに内金五六〇万円および利息を支払い、かつ同四〇年三月三一日に残債務金二四〇万円の担保として同額の通知預金債権を同銀行に差し入れたから、右債務は、遅くとも昭和四〇年三月末日以降期限の定めのないものとなり、従つて被控訴人主張の事前求償債権は昭和四一年四月五日当時発生するに由ない。」と主張するので考えてみるのに、

仮りに、控訴人主張の弁済、担保の提供、右弁済ないし担保の提供にもとづく弁済期の変更などの各事実が認められるにしても、民法第四六〇条所定の求償権は、主債務について当初に定められた弁済期の到来するかぎり、保証人において主債務者に対しこれを行使することができ、主債務者と債権者との間でその後期限の猶予、変更があつたところで、保証人に対する関係では、そのことをもつて対抗することができないものと解するのが相当であるから、控訴人の「昭和四一年四月五日当時被控訴人の事前求償債権は発生するに由ない。」との主張は、独自の見解をその前提とするものであつて、これを採用することができない。

(三)  控訴人は、被控訴人の事前求償債権には抗弁権が附着しているから、相殺の自働債権とすることはできない、と主張し、被控訴人は、これを争うので考えてみるのに、

(1)  事前求償権を行使される主債務者は、債権者が全部の弁済をうけない間は、民法第四六一条により保証人に対して担保を供すべき旨を請求することができるから、被控訴人の本件事前求償債権には主債務者たる控訴人の右民法第四六一条所定の担保請求の抗弁権が附着していることが明かであり、従つて、被控訴人は、このような抗弁権の附着した本件事前求償債権をもつて控訴人の本訴請求債権に対する自働債権とすることはできないものといわなければならない。

(2)  なお、民法四六一条所定の担保請求は、本来保証人に対し担保を提供すべきことの請求と解すべきではあるが、物上保証人が主債務者の委託により債権者に物的担保を提供している場合には、主債務者の同条による担保提供の請求は、右物的担保が被担保債権を十分満足せしめうるかぎり、もはやこれをなしえないと解する余地がないでもないので、この見地に立つて考えてみるのに、

本件においては、被控訴人が控訴人の委託により訴外銀行に担保として差入れた前記本件山林が時価金八〇〇万円相当のものであつたことは、この点に関する原審証人高柳、同三輪谷の各証言はたやすく措信しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠は存しない。そして、かえつて、<証拠>および弁論の全趣旨によると、訴外銀行はもつぱら控訴人を信用して前記のとおり金八〇〇万円を控訴人に貸与したものであり、従つて、なるほど、控訴人はそれまで同銀行と取引がなく、かつ被控訴人が控訴人を同銀行に紹介しまた本件山林を担保物件として提供したために右貸借が成立するにいたつたのではあるけれども、該紹介は右貸借の端緒を開いただけのことであり、かつまた被控訴人による右担保物件の提供は、単に右貸借の形式をととのえる趣旨でなされたもの、すなわち同銀行として本件山林について審査も経ないまま、ともかく同山林が担保であるということだけで右金員の貸与に踏み切つたにすぎず、あまつさえ本件山林は所在不明のものでその時価を把握することのできないものであることをうかがうにかたくない。そして当裁判所が措信しない前顕各証拠を措いて他に反証は存しない。してみると、被控訴人提供の物的担保が、被担保債権を満足せしめるとの点につき、結局のところ、これを認めるに足りる証拠がないことに帰する。

そうすると、控訴人の前記再抗弁は、その理由があるといわなければならない。

三しからば、被控訴人は、控訴人に対し、前記貸金二〇〇万円、前記手形金計三二〇万九、一九八円、および右貸金二〇〇万円に対する弁済期の翌日である昭和三七年一二月二二日以降支払済にいたるまで利息制限法の制限範囲内の年三割の割合による遅延損害金、前記別紙目録(一)記載の手形金七〇万円に対するその満期日の昭和三八年三月一〇日以降支払済にいたるまで手形法所定年六分の割合による利息、前記別紙目録(二)(三)(四)記載の各手形金計二五〇万九、一九八円に対する昭和三八年一〇月一四日付控訴人の請求の趣旨並びに原因訂正申立書が被控訴人に送達せられた日の翌日であること本件記録上明かな昭和三八年一〇月一七日以降支払済にいたるまで商法所定年六分の割合による遅延損害金、を支払うべき義務があること明かであり、控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきであり、これと異なる原判決は不当であり、本件控訴は理由がある。

よつて、民事訴訟法第三八六条に従い原判決を取消すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(三谷武司 鈴木辰行 西内辰樹)

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